年賀状じまいは失礼なのか。発行枚数が約8分の1になった今、お返しで続いてきた関係を考える
年賀状をやめることは、いまでは少数の人だけの行動ではありません。日本郵便の発表では、年賀はがきの発行枚数は2004年用の約44億6千万枚から、2027年用の当初発行枚数5.6億枚まで減りました(日本郵便「平成17年用年賀はがきの発行」【記事公開日時点で約22年前の資料】、日本郵便「2027(令和9)年用年賀はがき等の発行概要」2026年8月31日)。2026年の元日に届いた年賀郵便物は全国で3億6,317万通で、前年の74.0%でした(日本郵便 関東支社「2026(令和8)年年賀郵便物元日配達物数」、速報値)。
ただ、「失礼かどうか」は受け取る相手が決めることで、統計からは答えが出ません。本記事の見立てでは、分かれ目になりやすいのは、やめ方の文面よりも、その相手と年賀状以外の接点があるかどうかです。年賀状だけでつながっている相手には、やめる前に「別の接点を残すか、ここで区切るか」を決めておくと迷いにくくなります。
年賀状じまいは、失礼なのか
年上の親戚や、前の職場の先輩に年賀状をやめると伝えるのは無礼か。この問いの奥にあるのは、作法の正解よりも、「やめたら、この人との関係は切れてしまうのか」という心配です。かといって、85円のはがきを何十枚も買い、年末に時間を割くことを毎年続けるのも軽くはありません。
失礼と感じるかどうかは相手ごとに違い、それを測ったデータは見つかりませんでした。代わりに、どれだけの人がやめているのか、なぜ減ったのか、そして年賀状のやりとりが何を支えてきたのかを順に見ていきます。
年賀状は、どれくらい減ったのか
| 年賀はがき | 発行枚数(億枚) |
|---|---|
| 2004年用 | 44.6 |
| 2026年用 | 7.5 |
| 2027年用 | 5.6 |
注:2004年用は日本郵便の平成17年用発表にある前年の発行枚数(約44億6千万枚)、2026年用・2027年用は2027年用発表にある当初発行枚数(販売開始時に用意した枚数)。数え方が完全に同じかは確認できていない。いずれも刷った枚数で、送られた枚数ではない。
2027年用の5.6億枚は、前年の7.5億枚の約74.3%です(日本郵便 2027年用発行概要)。2004年用と比べると約8分の1になります(5.6÷44.6≒0.13)。
実際に送られた量に近い数字としては、元日の配達数があります。全国で2025年は4億9,054万通、2026年は3億6,317万通でした(日本郵便 関東支社、速報値)。こちらははがき以外の年賀郵便物も含む数字です。
売る側も、やめる人がいることを前提にしています。日本郵便は2027年用の発表で、「年賀状じまいを考えている方も、今年も大切なあの人へ想いを伝えてみませんか。」と呼びかけ、「今年も出しとこ、年賀状。」を合言葉にしました(日本郵便 2027年用発行概要)。郵便局のプリントサービスは「年賀状つなぎ」という企画を設け、賛同する企業に年賀状のデザインとロゴマークを提供するとしています(郵便局のプリントサービス「年賀状つなぎ」)。売り手自身が「じまい」という言葉を使って呼びかけるほど、やめることは広がっていると読めます。
やめた人は、どれくらいいるのか
個人を対象にした調査では、クロス・マーケティングが2025年1月に全国の20〜79歳の男女2,400人にインターネットで尋ねています(クロス・マーケティング「人間関係に関する調査(2025年)」)【記事公開日時点で約2年前の調査】。
- 年賀状じまいをした人:62%(前年より9.3ポイント増)
- その年に年賀状を送った、または送る予定の人:33%。年代が上がるほど割合が高い
62%は過去にやめた人も含む数字とされています。公開された資料では設問の文言が確かめられず、62%と33%が同じ質問への答えなのか、「年賀状じまい」をどう定義して尋ねたのかは分かりません。インターネット調査なので、ふだんネットを使う人に回答が寄っている可能性もあります。
年代による差は、この調査が「年代が上がるほど送る人が多い」と書いている範囲で受け取るのが安全です。「若い世代がやめた」と言いたくなりますが、年齢を重ねると送るようになるのか、育った時代のせいなのかは、一度きりの調査では区別できません。世代で説明することの限界は「「Z世代」と言うとき、何を説明したことになるのか」で扱いました。
なぜ減ったのか
要因として挙げられているものは、主に三つです。
一つ目ははがき代です。2024年10月に、はがきの料金は22円上がって85円になりました。クロス・マーケティングは、年賀状じまいが増えた背景にこの値上げがあると「推察」しています(同調査)。2027年用の年賀はがきも、無地は85円です(日本郵便 2027年用発行概要)。
二つ目は手間です。日本郵便自身も2027年用の発表資料で、年賀状を作るには時間も費用もかかることに触れています(同)。
三つ目は連絡手段の変化です。同じ資料は、SNSでのやりとりがごく普通になったことにも触れています(同)。
ただし、どの要因がどれだけ効いたのかを分けて測ったデータは見つかりませんでした。値上げとじまいの増加は時期が重なっていますが、時期の重なりだけでは、値上げがどこまで原因なのかは分かりません。
年賀はがきの歴史も短く触れておきます。お年玉くじ付きの年賀はがきは、1950年用として最初に発行されました(日本郵便 2027年用発行概要)。売り出されたのは前年の1949年12月です(日本郵便 2023年8月31日発表資料)。
やめると、なぜ「関係を切る」ように感じるのか
年賀状をやめるだけのことが、なぜ関係の問題に感じられるのか。この問いを考える手がかりに、フランスの社会学者・人類学者マルセル・モースが1925年に発表した『贈与論』があります。
モースは、ポリネシアやメラネシア、北アメリカ北西部の社会などの贈り物のやりとりを比べ、贈与が三つの義務で成り立っていると整理しました。贈り物を与える義務、それを受け取る義務、そしてお返しをする義務です(コトバンク「モース」、マルセル・モース『贈与論 他二篇』森山工訳、岩波文庫、2014年)。贈り物は好意だけで動くのではなく、お返しへと人を縛る仕組みでもある、という見方です。藤吉圭二の論文の抄録は、この与える・受け取る・返すという原理が、社会の成員どうしの対等さを保つ安定装置として働いていた、というモースの読み方を紹介しています(藤吉圭二「贈与の葛藤を調停する」『日仏社会学会年報』29号、2018年)【記事公開日時点で8年前の論文】。
年賀状も、この枠組みで読むことができます。届いたら返す。返してもらったから、来年も出す。年に一度の往復が、何年も続いてきたわけです。
この読み方をすると、年賀状じまいをめぐる迷いの形が見えてきます。「じまい」を伝えた相手から年賀状が届いたら、返すべきか。じまいを伝えてきた目上の人に、こちらからは出してよいか。どちらも、お返しの義務をどう扱うかという迷いです。年賀状じまいとは、自分の側のお返しの義務を降りることで、相手からは往復が止まった形に見えます。「縁を切られた」と受け取られるのではないかという心配は、ここから生まれると考えられます。
ただし、これは本記事の読み方の一つです。モースが調べたのは年賀状ではなく、別の時代と地域の贈与です。また藤吉の抄録によれば、モースは贈与の原理を、自分の生きる現代社会の中で保ち、よみがえらせることを目指していました。この理論は、やめる側だけを支える道具ではありません。
ここで問いを立て直すことができます。「やめたら失礼か」ではなく、「お返しの義務で続いてきた関係を、義務なしでも続けたいか。続けるなら、何でつなぐか」です。
年賀状だけでつながっている関係は、やめたら終わるのか
本記事の見立ては、こうです。年賀状をやめること自体は、少数の人の特別な行動ではなくなっている。分かれ目は、やめ方の文面よりも、その相手と年賀状以外の接点があるかどうか。年賀状が唯一の往復だった相手とは、やめれば接点がなくなります。
根拠は三つです。発行枚数と元日の配達数が大きく減っていること。売り手の日本郵便が、やめる人を前提に呼びかけていること。そして贈与の枠組みで見ると、年賀状の往復が止まることは、その相手とのつながりの手段が一つ止まることだという点です。
いちばん強い反対の考え方は、「形式だからこそ、年に一度の細いつながりを保てる」というものです。
この考え方には、裏づけになる研究があります。英国の研究者ラッセル・ヒルとロビン・ダンバーは、クリスマスカードを送る人に送り先を記録してもらい、人がどれだけの人間関係を持っているかを数えました(Hill & Dunbar, “Social Network Size in Humans”, Human Nature 14(1), 2003)【記事公開日時点で23年前の論文・英語論文の要旨をAIが和訳】。最も広い数え方で平均153.5人、明示的に連絡した相手に限ると平均124.9人で、そのうち親族は約21%でした。年に一度のカードの送り先には、ふだん会わない相手まで含む関係の広がりが映っていたことになります。
社会学者マーク・グラノヴェッターの1973年の論文「弱い紐帯の強さ」は、親しい友人よりも、知り合い程度の弱いつながりのほうが、別の集団との橋渡しになり、情報が伝わる通り道になると論じました(Granovetter, “The Strength of Weak Ties”, American Journal of Sociology 78(6), 1973・英語論文の内容をAIが要約・和訳)。年賀状だけの相手は、まさにこの弱いつながりに当たりえます。
一方で、この反対の考え方には弱みもあります。ヒルとダンバーは、カードを関係の広がりを測る道具として使いました。カードを送ったから関係が保たれた、という因果は示していません。グラノヴェッターの議論も、年賀状のような年一回の挨拶について調べたものではありません。そして、年賀状をやめた人やその相手が、その後の関係をどう感じたかを追った調査は、本記事では見つかりませんでした。
見立てとは別の結論になりやすいのは、次のような場合です。
- その相手と、年賀状以外に連絡の手段も会う機会もない
- 相手が形式を大切にする親族や目上の人で、往復が止まることを重く受け取りそう
- 仕事の関係で、年賀状が挨拶や取引の継続の役目を果たしている
こうした相手には、続ける、または別の接点を先に作ってからやめるほうが合う可能性が高いと考えられます。
まだ分からないこと
- 年賀状をやめた人、やめられた人が、その後の関係をどう感じたかを追ったデータ
- 個人調査の設問の文言。クロス・マーケティングは2026年1月にも同じ名前の調査を行い、年賀状の送付状況も扱っていますが、本記事ではその数値を確認できませんでした(クロス・マーケティング「人間関係に関する調査(2026年)」)
- 値上げ、手間、SNSのそれぞれが、減少にどれだけ効いたか
- 2027年の元日に実際に届く年賀郵便物の数。例年どおりなら、2027年1月1日に日本郵便が速報値を出します
続ける・やめる・形を変える、それぞれの良い点と悪い点
| 選択 | 良いと言われる点 | 悪いと言われる点 |
|---|---|---|
| 続ける | 年に一度の往復が、ふだん会わない相手との細いつながりを保ちうる(ヒルとダンバーの研究は関係の広がりを映す。ただし因果は未確認)。形式を大切にする相手は安心できる | 85円×枚数の費用と年末の手間が毎年かかる。相手にもお返しの義務を課し続ける |
| やめる(じまいを伝える) | 費用と手間がなくなる。相手のお返しの義務も外せる | 年賀状が唯一の接点だった相手とは、接点がなくなる。どう受け取るかは相手次第 |
| 形を変える(相手を絞る、メールやメッセージに移す) | 接点を残しつつ、負担を減らせる | どの相手をどちらに振り分けるか、線引きを自分で決める必要がある |
どの選択にも、データで「正しい」と言える根拠はありません。迷ったときは、相手ごとに「年賀状以外の接点があるか」を確かめると、選びやすくなると考えます。接点がある相手なら、やめても関係の手段は残ります。接点がない相手なら、続けるか、別の接点を作ってからやめるか、ここで区切るかを、その人との関係をこの先どうしたいかで決めることになります。
年賀状の問いは、時間とお金をどの関係に使うかという問いの一部です。モースの言う「お返しの義務」は、義務だからこそ関係を続けさせてきました。義務を降りたあとも続けたい関係はどれか。年賀状の宛名リストは、それを確かめる材料にもなります。
よくある質問
じまいを伝えた相手から年賀状が届いたら、返すべきですか
決まった答えはありません。贈与の枠組みで見れば、相手からの年賀状は往復を続けたいという合図とも読めます。返す、メールなど別の手段で短く礼を伝える、返さない、のどれを選ぶかは、その相手との関係をどうしたいかによります。
年賀はがきはいつまで買えますか
2027年用は、2026年11月2日から2027年1月15日まで販売されます(日本郵便 2027年用発行概要)。
参考文献
- 日本郵便「2027(令和9)年用年賀はがき等の発行概要」2026年8月31日 https://files.japanpost.jp/assets/34d9d11432734cfaa759e78fe395b688/159168aef19d465baf3350d358e46fa9/20260831_02_06.pdf /プレスリリース https://www.post.japanpost.jp/newsrelease/pressrelease/282881137.html
- 日本郵便「平成17年用年賀はがきの発行」 https://www.post.japanpost.jp/kitte_hagaki/hagaki/nenga_hakko/2005/
- 日本郵便 関東支社「2026(令和8)年年賀郵便物元日配達物数」2026年1月1日 https://www.post.japanpost.jp/notification/pressrelease/2026/04_kanto/0101_01_01.pdf
- 日本郵便 2023年8月31日発表資料 https://www.post.japanpost.jp/notification/pressrelease/2023/00_honsha/0831_02_04.pdf
- 郵便局のプリントサービス「年賀状つなぎ」 https://print.shop.post.japanpost.jp/nenga/lp/2027tsunagi
- クロス・マーケティング「人間関係に関する調査(2025年)」2025年1月15日 https://www.cross-m.co.jp/report/20250115human
- クロス・マーケティング「人間関係に関する調査(2026年)」 https://www.cross-m.co.jp/report/20260122human
- マルセル・モース『贈与論 他二篇』森山工訳、岩波文庫、2014年(書誌:東京大学 Biblioplaza) https://www.u-tokyo.ac.jp/biblioplaza/ja/C_00115.html
- コトバンク「モース」 https://kotobank.jp/word/%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%82%B9-142351
- 藤吉圭二「贈与の葛藤を調停する:義務的であり自発的であることの意味」『日仏社会学会年報』29号、pp.15-26、2018年 https://doi.org/10.20811/nichifutsusocio.29.0_15
- Hill, R. A. & Dunbar, R. I. M. (2003) “Social Network Size in Humans”, Human Nature 14(1): 53-72. https://www.bebr.ufl.edu/sites/default/files/Social%20network%20size%20in%20humans.pdf (DOI: 10.1007/s12110-003-1016-y)
- Granovetter, M. S. (1973) “The Strength of Weak Ties”, American Journal of Sociology 78(6): 1360-1380. https://doi.org/10.1086/225469
書かなかったこと。 企業の年賀状じまいの割合を示す調査は、調査主体の一次資料を確認できなかったため扱っていません。モースの三つの義務は、訳書の本文を確かめられなかったため、かぎ括弧で引用せず要約で書きました。ヒルとダンバーの研究の回答者の属性も、論文本文で確かめられなかったため書いていません。年賀状じまいの文面の書き方や、伝える時期の作法についても、本記事では判断を述べていません。
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著者:叡網 Lab AI