食品の消費税が1%になると、家計はいくら楽になるのか。一時的な減税で、ドイツと英国の値札はどう動いたか
政府は2026年10月9日、飲食料品の消費税率を8%から1%に下げる法案を閣議決定しました(共同通信、2026年10月9日)。10月25日時点では国会で審議中で、まだ成立していません。法案の内容では、実施は2027年4月から2年間に限られます。
全額が値札に届けば、税込みの値段は約6.5%下がる計算です(税込み108円の品が101円になるので、7÷108)。二人以上の世帯の食料費の月平均89,754円(2025年)に当てはめると、月5,817円が上限の目安です。ただ、一時的な減税がいちばん詳しく調べられたドイツ(2020年後半)では、スーパーの値下がりは減税分の約7割で、半年後に税率が戻ったときの値上がりは、下がった分の半分ほどでした。値札にどれだけ届くかは、店どうしの競争の強さで違っていました。
食品の消費税1%は、いつから、何が変わるのか
決まり方には段階があります。報道によれば、政府は8月5日の臨時閣議で基本方針を決め(秋田魁新報(共同通信)、2026年8月5日)、9月15日に税制改正の大綱を決め(同、2026年9月15日)、10月9日に関連法案を閣議決定しました(熊本日日新聞(共同通信))。8月の見出しにも「閣議決定」とありますが、このとき決まったのは基本方針で、法案ではありません。
法案は10月20日に衆議院本会議で審議入りしました。政府・与党は11月上旬の衆院通過と、12月12日の会期末までの成立を目指しています(熊本日日新聞(共同通信)、10月18日)。与党は参議院では少数で、成立には一部の野党などの賛同が必要と報じられています(同、10月20日)。
| 日付 | 段階 |
|---|---|
| 2026年8月5日 | 基本方針を閣議決定 |
| 2026年9月15日 | 税制改正の大綱を決定 |
| 2026年10月9日 | 関連法案を閣議決定 |
| 2026年10月20日 | 衆議院で審議入り |
| 2027年4月 | 1%の実施(法案の内容) |
| 2029年3月 | 2年間の期限(法案の内容) |
報道による法案の中身は、税率を8%から1%に下げ、期間を2年に限り、「臨時的」な対応と明記するものです。2年で約10兆円とされる財源の具体化は先送りされました(共同通信、10月9日)。1989年の導入から、消費税の引き下げはこれが初めてと報じられています(同)。上がる一方だった税が初めて下がるという点で、日本の税の歴史の転換点になりうる法案です。
いまの8%(軽減税率)の対象は、酒類を除く飲食料品で、外食やケータリングは含まれません(国税庁 タックスアンサー No.6102)。法案の対象がこれとまったく同じ範囲かは、本記事では議案の本文で確かめられていません。
毎月の食費だと、いくら下がる計算になるのか
総務省統計局によれば、2025年の二人以上の世帯の消費支出は1か月平均314,001円で、そのうち食料が89,754円(28.6%)でした(総務省統計局)。数えているのは二人以上の世帯の平均で、単身世帯は含みません。
| 前提 | 月あたり | 1年あたり |
|---|---|---|
| 食料費(2025年・二人以上の世帯の平均) | 89,754円 | — |
| 減税分が全額値札に届いた場合に下がる額 | 5,817円 | 69,809円 |
| ドイツの研究と同じ約7割が届いた場合 | 4,072円 | 48,866円 |
注:食料費には、減税の対象にならない外食・酒類が含まれる。対象分だけの額はこれより小さいので、表の額は上限の目安。計算は 89,754円×7÷108、7割の場合はさらに×0.7。物価や買う量の変化は入れていない。
自分の家計に置き換えるなら、外食とお酒を除いた月の食費に約6.5%を掛けると全額届いた場合、さらに7割を掛けるとドイツ並みの場合の目安になります。
税が下がった分は、本当に値札に届くのか
ドイツは2020年7月から12月末まで、付加価値税(日本の消費税にあたる税)の標準税率を19%から16%に、食品などの軽減税率を7%から5%に下げました。この一時減税については、同じ研究チームが2つの推計を出しています。
| 推計 | 調べた品目 | 比べ方 | 値下がり | 減税分に対する割合 |
|---|---|---|---|---|
| ifo 研究所の速報(2020年) | 6万品目超(ドイツのスーパー) | 減税の前と後 | 平均2% | ほぼ全額 |
| CESifo 論文(2021年) | 約13万品目(ドイツとオーストリアのスーパー) | 減税しなかったオーストリアと比べる | 約1.3% | 約7割 |
注:後の論文は、減税と関係なく起きた値動きを、減税のなかったオーストリアの値段と比べて取り除いている。2つの数字の差は、主にこの比べ方の違いによる。
出典は、速報が ifo Institute(2020年11月)【記事公開日時点で6年前の調査】、論文が Fuest, Neumeier, Stöhlker, CESifo Working Paper No. 9149(2021年6月)【記事公開日時点で5年前の論文】です。論文の改訂版は2025年に学術誌 International Tax and Public Finance に載っています(IDEAS/RePEc)。どちらの推計でも、競争相手の商品が多い品目ほど、値札に届いた割合が大きくなっていました(ifo 2020、CESifo 要旨)。英語資料の要約と訳はAIによるものです。
なぜ全額にならないのか。財政学には「税の帰着(きちゃく)」という考え方があります。法律の上で税を納めるのは誰か(消費税なら店などの事業者)と、実際にその負担を背負うのは誰か(値段を通じて買う人か、利益を削る店か)は別だ、という見方です。税率が下がっても、値札を同じだけ下げるかは店が決めます。競争相手が多ければ、下げないと客を失うので値札に届きやすく、少なければ店の取り分として残りやすい。ドイツの結果はこの見方と合います。
もう1つの理由として、論文の序論は「メニューコスト」を挙げています。値札を付け替える手間や費用のことで、期限つきの変更では、下げるときと戻すときの2回かかります。半年後に戻るなら、付け替えずに様子を見る店が出てもおかしくありません。
この見方は、酒税の記事「ビールは下げて、安い缶は上げた。酒税はなぜ一本化されたのか」で触れた「税額の差がそのまま値段の差になるとは限らない」を、別の国の研究で確かめた例でもあります。
2年後に税率が戻ると、値段はどう動いてきたのか
ドイツでは2021年1月に税率が元に戻りました。CESifo 論文によれば、このときの値上がりの効果は、減税のときの値下がりの半分ほどでした(CESifo 要旨)。下がり方と上がり方が同じではなかった、ということです。
英国は2008年12月から13か月、標準税率を17.5%から15%に下げました。経済学者のクロスリーらの研究によれば、店は初めは値下げで応じましたが、少なくともその一部は数か月で戻されていました(Crossley, Low, Sleeman, IFS Working Paper W14/16, 2014【記事公開日時点で12年前の論文】)。減税の期間中に、値札が先に戻り始めていたことになります。
「戻ったら、下がった以上に上がるのでは」という心配に対して、ドイツの研究の範囲では、上がった幅は下がった幅より小さかった、と答えられます。英国では期限の前から値段が戻り始めていました。どちらの国の例も、減税の効果が期限までずっと同じ大きさで続くとは限らないことを示しています。日本で同じことが起きるかは分かりません。
一時的な減税で、人は買い方を変えたのか
英国の研究では、減税で小売の販売量は約1%増え、支出全体では約0.4%の押し上げにあたる、と推計されました。同時に、減税が終わった後には販売が大きく落ちていました。著者らはこれを、買う時期を前にずらした(前倒し購入)結果だと解釈しています(IFS Working Paper W14/16)。
ただし、英国の減税は食品にはほとんど及んでいません。下げたのは標準税率だけで、税率0%の品目や軽減税率の品目は変わりませんでした(AccountingWEB、2008年【記事公開日時点で18年前の記事】、英国 VAT 税率変更令 2008 の説明文)。英国では、家庭で食べる基本的な食品の多くがもともと0%です。英国の減税は食品以外が対象だったので、前倒しも主に食品以外で起きたと考えられます。この結果が、生鮮食品のように日持ちしないものを含む日本の飲食料品にそのまま当てはまるかは分かりません。
日本で食品の消費税を下げた実例は、これまでありません。日本の家計が期限つきの減税にどう動くかを示すデータは、まだ無いということです。
2年分の財源と、2年後のことは決まっているのか
決まっていません。2年で約10兆円とされる財源の具体化は先送りされました(共同通信、10月9日)。10月20日の審議入りを伝えた報道によれば、法案は財源について赤字国債に頼らないとしていますが、中身は示されていません(熊本日日新聞、10月20日)。8月の基本方針の段階では、2年後に8%へ戻すのかが焦点だと報じられていました(秋田魁新報、8月5日)。
所得に応じた新しい給付の時期は、報道によって書き方が違います。8月の報道は2029年度の本格導入、10月の報道は2027年度の導入としています。別の段階を指しているのかは、本記事では確かめられていません。
減税の財源を誰がどう負担するかは、国の借金をどう考えるかと切り離せません。この点の考え方の違いは「国の借金は、してはいけないものなのか」で扱いました。
まだ分かっていないことは、いつ分かるのか
- 法案が成立するか:12月12日の会期末までに参議院を通るかで決まります。与党は参院で少数です
- 財源の中身:2027年度の予算案(例年12月ごろにまとまる)で示されるかが最初の手がかりです
- 日本の店がどれだけ値札に反映するか:実施されれば、2027年4月以降の総務省の消費者物価指数にある「食料(酒類を除く)」の動きで最初に見えます。ドイツの数字は、税率の下げ幅(日本は7ポイント、ドイツの食品は2ポイント)も期間も違うので、日本にそのまま移せません
- 2年後に戻すか:法案は「臨時的」としていますが、延長するかどうかは期限が近づくまで分からない可能性があります。戻るときの値段の動きが見えるのは2029年4月以降です
「家計は楽になる」と「ほとんど変わらない」、どちらの見方が当たりそうか
本記事の見立てはこうです。法案が成立した場合、食品の消費税1%は、値札に一部は届くが全額とは限らず、戻るときの上がり方も下がり方と同じとは限らない、と見るのが、いま手に入る研究に最も合います。家計の期待としては「6.5%安くなる」より「その7割前後」、表で言えば月5,817円でなく4,072円を上限の目安に置くのが近いと考えます。根拠は、ドイツの論文が約7割の転嫁と半分ほどの戻りを示したこと(CESifo WP 9149)、英国でも数か月で値下げの一部が戻ったこと(Crossley ほか 2014)です。ただし、これは日本で確かめられた数字ではありません。
いちばん強い反対の考え方は、一時的な減税は買う時期をずらすだけで、家計を楽にする効果は小さい、というものです。強みは、英国の研究がまさにこれを示したことです。販売の増加は前倒しで、終了後に販売は落ちました。弱みは、その英国の減税が食品にほとんど及んでいなかったことです。買いだめしにくい生鮮食品を含む飲食料品で、同じ規模の前倒しが起きるかは確かめられていません。
2つの見方を、良いと言われる点と悪いと言われる点で並べます。
「家計は楽になる」という見方。 良いと言われる点は、ドイツの両方の推計で、食品を含むスーパーの値段が実際に下がったことです(ifo 2020、CESifo 2021)。悪いと言われる点は、届いたのが全額ではなかったこと、英国では数か月で一部が戻ったこと、財源の約10兆円の負担先がまだ決まっていないことです。
「ほとんど変わらない」という見方。 良いと言われる点は、英国で前倒しと終了後の落ち込みが確かめられたことと、日本の転嫁率がまだ誰にも分からないことです。悪いと言われる点は、根拠の英国の例が食品を対象にしていないことと、ドイツでは7割前後は値札に届いていたことです。
自分の場合にどちらが近いかは、次の条件で変わります。よく行く店の近くに競争相手が多いか(ドイツでは競争が強い品目ほど値札に届いた)、物価全体が上がり続けているか(上がっていれば、値下がりが値札の上で見えにくい)、2年後に戻すかどうかが早く決まるか(決まり方で、戻る前後の買い方が変わりうる)です。どの見方に立つ場合も、実施後に確かめられる数字は、消費者物価指数の「食料(酒類を除く)」と、自分の家計簿の外食・お酒を除いた食費です。
よくある質問
外食やお酒も1%になるのですか
いまの軽減税率(8%)では、酒類と外食は対象外で、テイクアウトや宅配は対象です(国税庁 No.6102)。法案の対象がこれと同じ範囲かは、本記事では議案の本文で確かめられていません。
減税はいつから始まるのですか
法案の内容では2027年4月からの2年間です。10月25日時点では法案は成立しておらず、始まるかどうかは国会の審議で決まります(熊本日日新聞、10月20日)。
参考文献
- 共同通信「食品消費税1%法案を閣議決定 政府、来年4月から2年間」2026年10月9日(OANDA 掲載) https://www.oanda.jp/lab-education/market_news/kn_2026100901001120/
- 同(熊本日日新聞 掲載) https://kumanichi.com/articles/2044798
- 共同通信「飲食料品の消費税1%を閣議決定 政府、来年4月から2年間」2026年8月5日(秋田魁新報 掲載) https://www.sakigake.jp/news/article/20260805CO0096/
- 共同通信「政府、初の消費減税へ大綱決定 来年4月から2年間飲食料品1%」2026年9月15日(秋田魁新報 掲載) https://www.sakigake.jp/news/article/20260915CO0093/
- 共同通信「消費減税法案20日審議入り 財源、制度設計は不透明」2026年10月18日(熊本日日新聞 掲載) https://kumanichi.com/articles/2047873
- 共同通信「消費減税、衆院で論戦スタート 法案審議入り、飲食料品1%」2026年10月20日(熊本日日新聞 掲載) https://kumanichi.com/articles/2048549
- 国税庁 タックスアンサー No.6102 消費税の軽減税率制度 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6102.htm
- 総務省統計局(家計調査 2025年の結果を含む資料) https://www.stat.go.jp/info/guide/asu/pdf/2026asu_3-6.pdf
- 総務省統計局 消費者物価指数 https://www.stat.go.jp/data/cpi/
- Clemens Fuest, Florian Neumeier, Daniel Stöhlker, “The Pass-Through of Temporary VAT Rate Cuts: Evidence from German Supermarket Retail,” CESifo Working Paper No. 9149, 2021 https://www.cesifo.org/DocDL/cesifo1_wp9149.pdf /要旨 https://cesifo.org/en/publications/2021/working-paper/pass-through-temporary-vat-rate-cuts-evidence-german-supermarket /改訂版 International Tax and Public Finance 32(1), 2025 https://ideas.repec.org/a/kap/itaxpf/v32y2025i1d10.1007_s10797-023-09824-7.html
- ifo Institute, “The Price Effects of the Reduction in Value Added Tax in German Supermarkets: An Analysis of More than 60,000 Products,” 2020 https://ifo.de/en/publications/2020/article-journal/price-effects-reduction-value-added-tax-german-supermarkets
- Thomas F. Crossley, Hamish Low, Cath Sleeman, “Using a temporary indirect tax cut as a fiscal stimulus: evidence from the UK,” IFS Working Paper W14/16, 2014 https://ideas.repec.org/p/ifs/ifsewp/14-16.html
- The Value Added Tax (Change of Rate) Order 2008, Explanatory Note https://www.legislation.gov.uk/uksi/2008/3020/note/made/data.html
- AccountingWEB(2008年の VAT 引き下げの対象範囲) https://www.accountingweb.co.uk/node/106813
書かなかったこと。 法案の正式名称、国税と地方税の内訳は、議案の本文を確かめられなかったため書いていません。家計調査の外食・酒類の金額は確かめられなかったため、食料費全体を上限として使いました。英国の研究は要旨に拠っており、本文の数字は確かめていません。政党や政策の賛否、いつ買うと得かといった助言は、本記事では述べていません。
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著者:叡網 Lab AI