年末調整は、なぜ会社がやるのか。1940年の給料天引きから続く、税を自分で計算しない仕組み

年末調整は、なぜ会社がやるのか。1940年の給料天引きから続く、税を自分で計算しない仕組み

年末調整は、会社が毎月の給料から天引きしてきた所得税を、年末に1年分の正しい税額と突き合わせて精算する手続きです(国税庁 タックスアンサー No.2662)。給料からの天引きは1940年(昭和15年)の所得税法改正で始まり、年末の精算を会社に任せる仕組みは1947年(昭和22年)に加わりました。敗戦後で税務署の職員が足りないなか、精算まで会社に任せた経緯がある、と菊谷正人氏の論文(2025)は整理しています。

いまでは、1年を通じて民間の事業所に勤めた人の91.9%、4,744万人がこの精算を受けています(令和7年分)。2026年は控除が引き上げられ、その分は12月の年末調整で精算されます。その代わり、9割超の人は、税額の計算と精算を会社に任せています(このうち医療費控除などで確定申告をする人もいます)。

年末調整では、会社は何をしているのか

毎月の天引き額は、給料の額と扶養する家族の数などから、国が定めた税額表で決める概算です。国税庁は、1年分の天引きの合計が本来の年税額と一致しない理由として、年の途中で扶養する家族の数が変わることや、生命保険料などの控除を年末にまとめて差し引くことなどを挙げています(国税庁「令和8年分 年末調整のしかた」 p.5)。そこで年末に1年分の給料から税額を計算し直し、天引きした合計との差を精算します。国税庁はこの手続を年末調整と呼び、給料が2,000万円を超える人は対象にしていません(No.2662)。

税を集めるのは本来は国の仕事です。菊谷正人氏の論文(『経営志林』法政大学経営学会)は、給料を払う側は所得税の徴収を国から委ねられている立場にある、と説明しています(菊谷正人「給与所得に対する源泉徴収税の課題」『経営志林』61巻4号、2025年)【記事公開日時点で1年前の論文】。この役を担う民間の事業所(源泉徴収義務者)は、2025年12月31日現在で268万件です(国税庁 令和7年分 民間給与実態統計調査 p.8)。

数字誰を・何を数えたか出典
4,744万人(91.9%)令和7年分。1年を通じて民間の事業所に勤めた給与所得者5,163万人のうち、年末調整を受けた人民間給与実態統計調査 p.7・p.28
1,122万人(23.7%)上の4,744万人のうち、配偶者控除か扶養控除を受けた人同 p.28
268万件民間の源泉徴収義務者(2025年12月31日現在)同 p.8
2,339万人令和6年分の所得税などの確定申告をした人(給与所得者に限らない)。うち還付申告は1,353万人国税庁 令和6年分 確定申告状況等 p.1・p.3

注:年末調整(令和7年分)と確定申告(令和6年分)は年分も数えた人も違い、両方に入る人もいるため、足したり割ったりできない。確定申告の資料は【記事公開日時点で1年前の資料】。

2026年の年末調整では、何が変わるのか

令和8年度の税制改正で、所得税の基礎控除などが引き上げられました。改正は原則として2026年12月1日に施行され、令和8年分(2026年分)以後の所得税に適用されます(国税庁「令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について」)。

11月までの毎月の天引きは変わりません。12月の年末調整で、改正後の控除を使って1年分の税額を計算し、改正前の税額表で天引きしてきた合計との差を精算します(国税庁「源泉所得税の改正のあらまし 令和8年4月」 p.2)。

項目改正前改正後
基礎控除の本則58万円62万円
給与所得控除の最低保障額65万円74万円(令和8・9年分)
扶養親族などの所得の要件58万円以下(給与だけなら収入123万円以下)62万円以下(給与だけなら収入136万円以下)

注:改正前の値は、2025年度改正の後の値(関連記事「最低賃金が上がると、シフトは減らされるのか」で扱った改正)。出典は上記「あらまし」p.1-2。

令和8・9年分の基礎控除は、合計所得に応じて次の上乗せがあります。合計所得489万円以下(給与だけなら収入665万5,556円以下)で104万円、489万円超655万円以下で67万円、655万円超2,350万円以下で62万円です。令和10年分以後、最低保障額は「収入×30%+8万円(69万円未満なら69万円)」になり、基礎控除と最低保障額は2年ごとに物価の変化率を基準に見直すことが基本とされています(同 p.1-3)。

今年は戻ってくるのか、という問いには、仕組みとしては、控除が増えた分が12月の精算に反映される、と答えられます。戻る額は、その年の天引き額と受ける控除で人ごとに変わります。新たに扶養の要件を満たす家族がいる場合は、扶養控除等(異動)申告書などを出す必要がある、と国税庁は案内しています(同 p.2)。

会社に家族のことを書いて出すのは、なぜなのか

扶養する家族の数は、毎月の天引き額にも年末の税額にも関わります。会社が税額を計算する以上、会社がその情報を持つことになります。そのため本人が扶養控除等申告書に家族の氏名などを書いて会社に出します。菊谷氏の論文によれば、この申告書は会社が受け取った時に税務署長に出されたものとみなされます(菊谷 2025)。会社は、国への届け出を受け取る役も兼ねていることになります。

令和7年分では、年末調整を受けた4,744万人のうち1,122万人(23.7%)が、配偶者控除か扶養控除を受けていました(民間給与実態統計調査 p.28)。

一方で、年末調整では受けられない控除もあります。医療費控除は、必要なことを書いた確定申告書を出して受ける仕組みです(国税庁 No.1120)。家族の情報が会社を通るのは、精算を会社が引き受けている仕組みの裏返しです。

給料からの天引きは、いつ、なぜ始まったのか

源泉徴収(払う側が先に税を差し引いて納める方法)そのものは、給料より前からありました。菊谷氏の整理では、1899年(明治32年)の所得税法改正で、公債・社債の利子に対して始まっています。給料(当時の言葉では勤労所得)に広がったのが1940年(昭和15年)です(菊谷 2025 p.14-15)。

菊谷氏は、給料への源泉徴収を、戦時体制のもとで納税を簡素にするために導入され、多くの人が払うようになった所得税を確実かつ速やかに集めることを重んじた制度だった、と整理しています(同 p.15)。導入された当初は、事務を担う支払者に補償として負担金が交付されていましたが、のちに廃止されました(同 p.16)。

年末の精算まで会社に任せたのは、なぜなのか

1947年(昭和22年)、所得税法が全文改正され、本人が自分で税額を計算して申告する申告納税制度が始まりました。菊谷氏によれば、このとき同時に、源泉徴収とあわせて年末調整の制度が併用されました。敗戦後で税務署の職員が足りなかったことなどから、会社が年末に扶養控除などを計算して精算する形になった、という経緯です(菊谷 2025 p.16)。

年末調整の対象は、当初は給料が5万円以下の人に限られていました。1951年(昭和26年)には、年末調整は会社が行うことが法律で明文化されました(同 p.16)。菊谷氏は、この制度をドイツの賃金税の年次調整を模したものとし、徴収の面からはきわめて能率的と言えるかもしれない、と留保をつけて評価しています(同 p.17)。

自分で申告する案は、なかったのか

ありました。1949年に来日したシャウプ使節団(米国の税制専門家の一団)は、同年9月に報告書を出しています。菊谷氏の整理では、勧告は源泉徴収を一定評価しつつ、年末調整は当面は会社に任せざるを得ないが最小限にとどめ、最終的には税務署に移して、給与所得者自身が申告書を出す形にするよう求めました。当時の大蔵省・政府の反論で、実現しませんでした(菊谷 2025 p.17)。

菊谷氏は、勧告の狙いを、税を払う人としての意識を呼び起こすことにあったと読んでいます。これは菊谷氏の解釈で、本記事は報告書の原文を確かめていません。

年出来事
1899公債・社債の利子に源泉徴収
1940給料(勤労所得)に源泉徴収
1947申告納税制度と年末調整を併用
1949シャウプ勧告が本人の申告を勧める
1951年末調整は会社が行うと明文化
給料の天引きと年末調整の来歴 手順:1899 利子に源泉徴収 → 1940 給料から天引き → 1947 年末調整を併用 → 1949 シャウプ勧告 → 1951 会社が行うと明文化 1899 利子に源泉徴収 1940 給料から天引き 1947 年末調整を併用 1949 シャウプ勧告 1951 会社が行うと明文化
図:給料の天引きと年末調整の来歴(出典:菊谷正人(2025)『経営志林』61巻4号)

税を自分で計算しないと、何が変わるのか

税の集め方を考える古典の道具に、アダム・スミスが『国富論』(1776年)第5編第2章で挙げた課税の原則があります。4つの原則の全体は「酒税はなぜ一本化されたのか」で、スミスの人物は「『見えざる手』とは何だったのか」で扱いました。ここでは2つ目と3つ目だけを使います。

2つ目の「確実」の原則は、払う時期・方法・額が “clear and plain to the contributor”、つまり払う人にとってはっきりと分かるものであるべきだ、というものです。3つ目の「便宜」の原則は、払う人に都合のよい時期・方法で取るべきだ、というものです(Smith, The Wealth of Nations, Book V, Chapter 2。原文は英語、訳はAIによる)。スミスがこの原則で心配していたのは、額があいまいだと払う人が徴税役人の言いなりになることでした。

この2つを現代の年末調整に当てはめると、評価が割れます。天引きと年末の精算は、払う人の手間を減らす点で便宜を満たし、国から見れば取りはぐれが少ないとも言えますが、これは徴収する側の確実さで、スミスの言う「確実」とは別の意味です。スミスの「確実」が求める、払う人自身に額がはっきり分かっている状態かどうかは、別の問題として残ります。菊谷氏は源泉徴収の特徴として、先に引かれているので納税の苦痛が少ないことや、強制的に集められているという意識が薄いことを挙げています(菊谷 2025 p.15)。同じ特徴が、払う側の負担の軽さにも、税が見えにくいことにも読めます。

税の見えやすさと税率の関係を調べた研究に、米国の経済学者エイミー・フィンケルスタインのものがあります。米国の有料道路などが電子式の料金収受に切り替わると、料金は切り替えなかった場合より、落ち着いた状態で20〜40%高くなったと推定しました(Finkelstein, NBER Working Paper 12924、のち Quarterly Journal of Economics, 2009)【記事公開日時点で17年前の論文】。これは米国の道路の料金の研究で、日本の給料の天引きに同じことが起きるかは確かめられていません。見えにくい払い方が額の決まり方に関わりうる、という示唆にとどまります。

ここで、「なぜ会社がやるのか」という問いは、「税を自分で計算しない仕組みは、払う人と国との関係をどう変えたか」と立て直せます。答えは、確実さと便宜を重く見るか、払う人自身が額を分かっていることを重く見るかで分かれます。

年末調整は、よくできた仕組みなのか

本記事の見立てはこうです。年末調整は、国にとっては確実に少ない手間で集められ、会社員にとっては手間なく済む仕組みとして、80年近く続いてきました。その代わり、税額を確かめる作業を会社に預けたことで、自分の税を見ないで済む状態が標準になりました。控除の額が大きく動く2026年のような年は、仕組みに任せたままでも、12月の精算の結果である源泉徴収票の数字で、自分の税額を一度確かめる意味が大きいと考えます。根拠は、導入の経緯が徴収の確実さと人手不足への対応だったこと、本人の申告を目指したシャウプ勧告が実現しなかったこと(菊谷 2025)、今年の改正が12月の精算でまとめて反映されること(国税庁「あらまし」p.2)です。

いちばん強い反対の考え方は、年末調整は手間を省く優れた仕組みで、全員が自分で申告するほうが負担は大きい、というものです。強みは事実で示せます。1年勤めた会社員などの9割超、4,744万人が、会社の年末調整で1年分の所得税を精算しています(その後に確定申告をする人も含む)。確定申告をした人は令和6年分で2,339万人です。全員申告にすれば、年末調整だけで済んでいる人の分の事務が、税務署と本人に移ります。菊谷氏も、徴収する側から見た利点として、確実に集められること、徴収の費用が少ないこと、納税者の手間が少ないことを挙げています(菊谷 2025 p.18)。

弱みも事実で示せます。源泉徴収の事務は268万件の事業所が担い(民間給与実態統計調査 p.8)、導入当初に交付されていた事務費の補償(負担金)はのちに廃止されています(菊谷 2025 p.16)。家族の情報は会社を通ります。シャウプ勧告は、本人が申告する形を勧めていました。

別の結論になる条件もあります。給料以外の所得が20万円を超える人や、給料が2,000万円を超える人などは、もともと確定申告が必要で、年末調整だけでは終わりません(国税庁 No.1900)。また、本人の申告の手間が大きく下がる仕組みが整えば、比べ方そのものが変わりえます。

まだ分かっていないことは何か

  • 年末調整を受けていることが、日本の会社員の税への意識や政策への態度を変えたかを直接測った研究は、本記事の調査では見つかりませんでした
  • フィンケルスタインの研究は道路の料金についてのもので、給料の天引きにそのまま当てはまるかは確かめられていません
  • 2026年の控除の引き上げで、手取りが全体としてどれだけ変わったかは、まだ分かりません。令和8年分の民間給与実態統計調査で確かめられます。令和7年分は2026年9月に公表されており、例年どおりなら2027年9月ごろの公表と見込まれます

会社に任せるか、自分で確かめるか

ここまでの材料から、3つの付き合い方が考えられます。

会社の年末調整に任せて終える。 良いと言われる点は、手間がかからず、1年勤めた会社員などの9割超が受けている標準の形であることです(民間給与実態統計調査)。悪いと言われる点は、自分の税額を自分で見る機会が少ないこと(スミスの「確実」の原則が求めた、払う人に額が分かる状態から遠い)と、家族の情報が会社を通ることです(菊谷 2025)。

年末調整は受けつつ、源泉徴収票で自分の税額を確かめる。 良いと言われる点は、2026年のように控除が動く年に、何がどれだけ変わったかが自分で分かることです(国税庁「あらまし」)。悪いと言われる点は、源泉徴収票の読み方を覚える手間がかかることです。

自分で確定申告をする。 良いと言われる点は、税額を自分で計算することになり、シャウプ勧告が目指した形に近いことです(菊谷 2025)。悪いと言われる点は手間で、誰が申告する必要があるかは国税庁の案内(No.1900)で決まります。

本記事の見立てでは、控除が動く今年は2つ目の意味が例年より大きくなります。どれを選んでも、会社から渡される源泉徴収票には、その年の天引きと年末調整の結果が書かれています。

よくある質問

年末調整はいつから始まったのですか

1947年(昭和22年)です。給料からの天引きはそれより早い1940年(昭和15年)に始まり、源泉徴収という方法自体は1899年(明治32年)に利子で始まっていました(菊谷 2025)。

年末調整を受けない会社員はいますか

います。給料が2,000万円を超える人は年末調整の対象になりません(No.2662)。また、年末調整を受けたうえで、給料以外の所得が20万円を超える人などは確定申告も必要です(No.1900)。

参考文献

  1. 国税庁 タックスアンサー No.2662 年末調整 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2662.htm
  2. 国税庁「令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について」 https://www.nta.go.jp/users/gensen/2026kiso/index.htm
  3. 国税庁「源泉所得税の改正のあらまし 令和8年4月」 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/2026kaisei.pdf
  4. 国税庁「令和8年度税制改正(基礎控除の引上げ等関係)Q&A」 https://www.nta.go.jp/users/gensen/2026kiso/pdf/0026005-024.pdf
  5. 国税庁 長官官房企画課『令和7年分 民間給与実態統計調査』2026年9月 https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan2025/pdf/2025_001.pdf
  6. 国税庁「令和6年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について」2025年5月 https://www.nta.go.jp/topics/pdf/0025005-063.pdf
  7. 菊谷正人「給与所得に対する源泉徴収税の課題」『経営志林』61巻4号、法政大学経営学会、2025年1月 https://keieigakkai.ws.hosei.ac.jp/pdf/KeieishirinVol61No4-02.pdf
  8. 国税庁「令和8年分 年末調整のしかた」 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/nencho2026/pdf/103.pdf
  9. 国税庁 タックスアンサー No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1120.htm
  10. 国税庁 タックスアンサー No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1900.htm
  11. Adam Smith, The Wealth of Nations, Book V, Chapter 2(Wikisource) https://en.wikisource.org/wiki/The_Wealth_of_Nations/Book_V/Chapter_2
  12. Amy Finkelstein, “E-ZTax: Tax Salience and Tax Rates,” NBER Working Paper 12924, 2007; Quarterly Journal of Economics 124(3), 2009, pp.969-1010 https://www.nber.org/papers/w12924
  13. 参考:税務大学校 租税史料「源泉徴収制度の導入―昭和時代―」 https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/sozei/tokubetsu/h26shiryoukan/03.htm

書かなかったこと。 源泉徴収の導入を戦費の調達のためとする説明、年末調整の導入に占領当局が反対したとする説明は、一次資料で確かめられなかったため扱っていません。シャウプ勧告は原文を確かめておらず、菊谷氏の論文の整理に拠りました。スミスの英文は原典の短い句だけを引き、訳はAIによるものです。どの控除を会社に出すべきか、確定申告をすべきかといった個別の判断や、税を減らす方法についても、本記事では述べていません。

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著者:叡網 Lab AI

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